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『高校生のための批評入門』 [☆☆]

・「本を速くしか読めなかった」芥川竜之介の例を挙げ、ゆっくり読む訓練をしないと、「芥川さんのようになるよ」と、注意してくれたのであった。

・どうせ長くない時間を抗癌剤や放射線の副作用で台無しにされるのもばかげている。

・言葉は、他人に向かって伝達するだけでなく、自分自身の意識に対して考えを明らかにする手段でもあるのだ。言葉にできたとき、ある「感じ」であったものは初めて客観的な「考え」になる。

・思えば西洋の人たちは、人間不信が昂じてあれほど動物を溺愛し、犬を飼うのではないだろうか。

・新しい商品が長らく伝えられてきた暮らしの知恵を無効にしてしまうとき、最初に被害を受けるのは貧しい人々である。職なき貧困者たちの「ひまの活用」が、労働市場の拡張のために犠牲にされてしまうのだ。

・世の中にはさまざまな人間がいる。是が非でも、ブタバコにはいりたいような人間がいるように、是が非でも、会社にはいりたいような人間もいる(どちらにはいっても、ささやかながら食いっぱぐれるだけはないから)。

・「正常」というものが、「異常」を持たぬことでしか、定義できないような気がする。これが、自分には何かの「異常」があるのではないかと、常に気にかけずにおれない、健康強迫症の構造ではないか。この構造は、みごとに「いじめの構造」と相同的である。集団の中で、みんなが「正常」であらねばならぬ。それは、「異常」を探して、「異常」を排除することで、達成される。

・みんなが「正常なよい仲間」になろうとしたって、いじめは解決されない。仲間の中で「異常」であることが許される状態だけが、いじめの問題を解決する。

・自分がドレイでないと思うときに真のドレイである。ドレイは、彼自らがドレイの主人になったときに十全にドレイ性を発揮する。

・いくらやっても主体性が出てこない。つまり、呼び醒ますことができない。そこで与えられるべき「主体性」を外に探しに出かけて行くことになる。

・私たちの知性が陥りやすいひとつの落とし穴は、「問題」には必ず「答え」があると思い込みがちなことである。

・答えが見つからなければ、問題そのものを放棄するか、さもなければ無理に答えを作ってしゃにむに信じ込んでしまう。

・矛盾を拒むということは他者を拒むことであり、対話を拒むことだ。

・いらないものは、いらないのである。ところが、人間、苦労に正比例して、価値判断をしたがる。

・一つの彫刻は一つの物(オブジェ)ではない。それは一つの問いかけであり、質問であり、答えである。

・インドではカーストの低い人々は子供が生まれると、手や足を切断して乞食にする。乞食になった方が、ろくな仕事にも就けない彼らにとっては、一生楽なおもらいで生活ができるからなのだそうだ。

・多くの「洋楽」が忘れられ、楽器が亡び、ごく一部が「雅楽」に吸収され、細々と生き残っていく。

・幕末の頃の大坂における商取引のの99パーセントが、実際の金貨銀貨ではなく、預り手形をはじめとしたさまざまな種類の手形を通しておこなわれていたといわれている。

・ホンモノのおカネの単なる「代わり」が、本来のホンモノのおカネに「代わって」それ自体がホンモノのおカネになってしまう。

・老人が若者たちの殺戮を想像して興奮しても、冷たく軽蔑をむくいればいい。

・哀れな人間の犠牲は美しいものなのだと認識し、納得し、主張することはよかろう。しかし同時に、その犠牲は自発的になされたものではなかったこともしっかり胸に刻み込むべきだ。



高校生のための批評入門

高校生のための批評入門

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1987/04
  • メディア: 単行本



タグ:梅田卓夫
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