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『恐怖の地政学 地図と地形でわかる戦争・紛争の構図』 [☆☆]

・チベットが「中国の給水塔」と呼ばれるのは、中国の大河の源流があるためなのだ。インドにみすみす水源を渡すわけがない。

・インドに中国の水源を断つ気があるかどうかは問題ではない。それが可能な力を持つこと自体が問題なのだ。

・自国の製品が海上封鎖で輸出できなくなったら、どうなるだろう? そうした問題に備えるために必要なのが、海軍だ。

・アメリカは、1979年に台湾関係法が成立したので、中国に侵略された場合は台湾を守る責任があるのだ。しかし、台湾が中国から完全に独立すれば、アメリカは台湾の援護に駆け付ける義務はない。

・2014年、香港の学生が民主的な選挙を求めて中国に対する抗議活動を展開したとき、当局が素早く鎮圧しなかった理由のひとつは、事態を見守る世界中のカメラに暴力行為を記録される恐れがあったためだ。

・誰も商品を買わなければ、中国は何も作れない。そして商品を作れなくなれば、大量の失業者が出る。失業者が大量に出れば、社会不安が生まれることは避けられない。

・ロシア人はこの動物を「熊」と呼ぶことに慎重でもある。名前を呼ぶと本当にその獰猛な獣が出てくるのではないかと恐れているのだ。そのため熊はロシア語で「ハチミツが好きなもの」を意味する単語を使ってメドベード(medved)と呼ばれている。

・ベルリンの壁が崩壊した1989年からわずか15年後の2004年には、ロシア以外のワルシャワ条約機構加盟国すべてがNATOやEUに加盟している。

・すでに中華料理のレストランができ、それ以外のビジネスもどんどん流れ込んでいる。極東ロシアの人口が激減した過疎地は、まるで中国文化に支配されたかのようだ。いずれは政治的にも支配されるかもしれない。

・中立の立場を取るウズベキスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンは、ロシアとも西側諸国とも連携する理由がほとんどない。この三か国はどこもエネルギーを自給でき、国防にせよ交易にせよ、西側にもロシアにも何ら義理を負っていないためだ。

・ロシア寄りなのはカザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ベラルーシ、アルメニアだ。これらの経済は、東部ウクライナと同じようにロシアにしっかり結びついている。

・ジョージア、ウクライナ、モルドバもここに加えることができる。三か国ともNATOとEUへの加盟を希望しながら敬遠されているのは、地理的にロシアに近く、ロシア軍やロシア寄りの義勇軍が国内に駐留しているためだ。この三か国のNATO加盟は戦争の火種になりかねない。

・ウクライナ暫定政府は勝利に興奮したのか、すぐさま愚かな改革を始める。中でも目を引いたのが、ロシア語を準公用語と定める法律の廃止だった。政府の発表が激しい反感を買ったのは当然と言えよう。この事態は、ウクライナのロシア民族を守るという口実をプーチン大統領に与える結果となった。

・北朝鮮は、虚勢を張る弱虫という常軌を逸した演技で効果を上げている。

・その武装部隊は世界屈指で、百万人強の規模だ。大部分は高度な訓練を受けていないが、北朝鮮政府は内戦を拡大させるための消耗品として使うはずだ。

・東ドイツ社会は、西ドイツに比べてかなり遅れてはいたが、発展の歴史や産業基盤があり、高度な教育を受けた国民もいた。一方北朝鮮の発展はゼロから始めなければならず、そのコストは十年間にわたって統一朝鮮の経済を圧迫するだろう。

・日清戦争も日露戦争も、朝鮮半島における中国とロシアの覇権を阻止するための戦いだった。

・アメリカはシリアでの人権侵害に激怒し、声高に非難する。しかし、バーレーンでも同じことが起こっているのに、それに対する怒りの声は聞こえてこない。第五艦隊の司令部をバーレーンに置いているためだ。

・ある特定の文化では、面目を保つことや、譲歩したとみなされないことが非常に重要視される。しかし、これはアラブや東アジアの文化に留まらない。表現こそ違うが、人類共通の問題なのだ。

・「一インチ許せば一マイル望む」(少しでも甘い態度を見せれば相手はつけあがるの意)。

・穏やかに話せ、だが必要とあらば実力行使しろ。

・アメリカは、人は団結したがるものだと推測したが、実際は大半の人々が団結しようとせず、過去の経験から個別に生きることを望んだ。そよ者を信頼できないのは悲しいことだが、これは長い歴史の間に幾度も、多くの場所で見られた不幸な事実なのだ。

・冬にもおまけがある。屋内で働くには充分な気温だが、現在も世界中を悩ませる病原菌の多くは死滅する寒さなのだ。

・ドイツ人が「自分たちは65歳まで働いて税金を払い、その税金はギリシャに行くので、ギリシャの人々は55歳でリタイヤできる」と指摘するのに時間はかからなかった。

・ギリシャの納税者は――ギリシャ経済を維持できる数ではない――まったく異なる見方をしていた。「なぜドイツ人が私たちに指図するのか? ユーロで誰よりも甘い汁を吸っているのは彼らなのに」。

・地形が人間に強いる「ルール」を乗り越えようと絶えず努力しなければ、「ルール」が人間を打ち負かすことは、地政学が証明している。

・何をやってもうまくいかない場所というのはあるものだ。しかしアフリカほど長い間成功できなかった場所は、ほとんどない。

・外界の人々が大挙して押し寄せてきた頃、アフリカ大陸の大半ではまだ文字や紙、火薬、車輪も発明できていなかったのである。

・多くの専門家は、この三つの地域を一つの国にまとめられるのは独裁者だけだと述べている。実際イラクでは、次々と独裁者が現れた。しかし人々は決してまとまらず、恐怖で凍りついただけだった。

・2015年夏までに、中東各地の多数のアラブ人と多くの地域メディアがISを別の名称で呼び始めた。「ダーイシュ(Daesh)」という呼称だ。「陰険で、付和を生む者」を意味するアラビア語「Daes」と同じ発音で、罪人を意味するfahishといった否定的な言葉とも韻を踏んでいるためだ。「大ばか者」という意味のjaheshとも韻を踏み、発音も似ている。

・「アラブの春」は、メディアが作った実態とかけ離れた呼称だ。多くの記者が、英語のプラカードを持って街頭に立つ若き自由主義者のインタビューに走り、彼らの言葉こそ市民の声であり歴史が動く方向だと誤解した。

・イランの「緑の革命」の際にも同じ過ちを犯したジャーナリストがいた。テヘラン北部の学生を「若きイラン」と呼び、保守的な民兵部隊バスィージや革命防衛隊に加わっていた若者を無視したのである。

・中国の厚かましさに比例するように、中国が領土と主張する地域も拡大していくようだ。

・初めて「麻薬との戦い」と宣言したのは、1970年代のニクソン大統領である。それは「テロとの戦い」と同じく、どこか曖昧な概念で、勝利は見込めない戦いだ。

・ニカラグア運河は2020年代初頭に完成する予定で、建設費500億ドルはニカラグア経済全体の4倍の規模だ。これも中国からラテンアメリカへの莫大な投資の一部である。

・どのような領有権問題も、同じ欲望と恐怖から生じる。安全に航行できるルートを確保したいという欲望、その地域の天然資源を手に入れたいという欲望、そして自分が手に入れ損ねた土地を他者が手に入れるかもしれないという恐怖である。

・私たちは重力の足枷からは自由になっても、いまだに自分自身の精神や記憶に囚われ、「よそ者」への猜疑心に縛られ、天然資源をめぐる競争に巻き込まれたままだ。



恐怖の地政学 ―地図と地形でわかる戦争・紛争の構図

恐怖の地政学 ―地図と地形でわかる戦争・紛争の構図

  • 作者: ティム・マーシャル
  • 出版社/メーカー: さくら舎
  • 発売日: 2016/11/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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