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『放射線・放射能がよくわかる本』 [☆☆]

・原子核の質量は、それを構成している陽子や中性子の質量の合計より軽い。この消えた質量のことを「質量欠損」と言いますが、その消えた質量に真空中の光速度の二乗をかけて得られる静止エネルギー(原子核の結合エネルギー)が、陽子や中性子をひとかたまりにまとめるために使われているのです。

・はるか過去に陽子や中性子が集まってその原子核を形づくったとき、質量欠損に相当する静止エネルギーが放射線となって宇宙のかなたに飛び去ってしまったので、それ以降、原子核の中の陽子や中性子はエネルギーが足りなくて、外に飛び出せなくなってしまったのです。

・物質が変化するにはエネルギーが必要ですから、少し文学的な言い方をすれば、宇宙に活力を与えているのは放射線だと言うことになります。もし、宇宙に放射線というものがなければ、宇宙は星ひとつ輝かない、冷たく死んだ世界となるでしょう。

・そもそも、自然現象によいとかわるいとかの区別があるはずがありません。もし、あるとすれば、それは区別する側の価値観の問題でしょう。

・「少量の放射線は、ひとの健康に役立つ」と考えている人たちがいます。これは、放射線ホルミシスと呼ばれる現象で、放射線を受けたことによる刺激が免疫機能を強めるなど、ひとの健康維持にとって有益な効果をもたらすという考え方です。

・国際放射線防護委員会は、2007年の基本勧告の中で「飲食物、化粧品、玩具、装飾品などに、意図的に放射性物質を添加することは正当化できない」と明言し、EUでも法令で禁じていますが、日本では、まだ規制への動きすらないようです。

・吸収線量がどんな量かを手短に説明すると、「放射線を受けた物質の単位質量当たりに原子や分子の電離や励起の形で受け渡されたエネルギー」ということになります。

・国際宇宙ステーションでは、一日当たりの実行線量が1ミリ・シーベルト近くになります。

・放射能は、不安定な原子核がその構造を変化させて、より安定な原子核に変わる際に、余分なエネルギーをさまざまな粒子に託して放出する性質です。

・カリウムは人の体に約0.2パーセント含まれている元素ですが、その0.01パーセント強は地球の誕生以前からあった放射性のカリウム40です。

・野菜の中にはカリウムを多く含むものがありますが、そうした野菜の切り口を写真のフィルムに密着させて暗室の中に置いておくと、カリウム40から放出されるベータ線のためにフィルムが感光し、うっすらと野菜の輪郭が写し出されます。

・平均寿命より長く生きる人も早く亡くなる人もあり、特定の個人の寿命が何年かを予測できないように、その原子核がいつ壊変するかを予測することはできません。

・放射性のある原子と放射線のない原子は、原子核がやがて壊変する不安定さを持っているか否かの違いがあるだけで、同じ数の軌道電子を持っていますから、元素としての化学的性質に違いはありません。そのため、科学的な方法で、両者を判別したり分離したりすることはできません。

・放射性のある原子は放射性のない原子とまったく同じように、化合物を作り、反応する。

・ベクレルは放射能の強さ(activity)の単位で、「毎秒何個の壊変が起きるか」を表す量です。この量が、「毎秒何個の放射線を放出するか」ではないことに注意が必要です。なぜならば、一つの壊変で放出される放射線の数は、必ずしも一個とは限らないからです。

・コバルト60は、ベータ壊変して一個のベータ線を放出すると、ニッケル60の励起状態になり、それが安定なエネルギー状態に移る間に二個のガンマ線の光子を放出します。つまり、コバルト60は一回の壊変につき三個の放射線粒子を放出していることになります。

・ベクレル単位で表した放射能の強さは、その放射性物質がどれくらい危ないかを表すものではありません。なぜなら、ベクレル単位で表した放射能の強さは、放出された放射線の作用の強さとは無関係だからです。

・およその目安として「十ギガ・ベクレルを越えるような放射性物質の取り扱いは慎重に、十メガ・ベクレル以下ならびくびくする必要などない」と覚えておけば、大きな間違いをしなくて済むでしょう。

・中越沖地震の際に原子力発電所から出た微量の放射性物質を含む水は、放射性濃度がラジウム温泉の十分の一しかなくても、ニュースの種になりました。その一方で、モザナイトなど天然の放射性物質を用いた怪しげな健康器具や化粧品を、高額で買い求める人たちがいます。

・それらの場所に付着した放射性セシウムが、ガンマ線という光を出している光っていてその光でどのくらい照らされているかを表すのが、新聞などに発表されている放射線の量なのです。

・発電所からの放射性物質の噴出は三月以降ありませんから、決して、放射性セシウムがこれらの地域の空中をただよっているわけではありません。

・放射性セシウムのガンマ線は、その強さを十分の一に弱めるために2.5センチ・メートルの厚さの鉛遮蔽が必要ですから、戸や窓を閉めてもガンマ線を防ぐことはできません。

・生物の体を構成する炭素1キロ・グラムには、約230ベクレルの放射性炭素が含まれています。

・国際線の飛ぶ高度1万メートル付近では1時間に4~8マイクロ・シーベルトになります。ですから、日本からアメリカやヨーロッパへ往復すると、飛行機の中で150~200マイクロ・シーベルトの宇宙線を受けることになります。

・私たちは、宇宙線が作り出すトリチウムと放射性炭素を、飲み水や食べ物の形で常時体に取り込んでいます。その放射能の強さはトリチウムが平均で1年に約500ベクレル、放射性炭素14が平均で1年に約20キロ・ベクレルになります。私たちは、トリチウムと炭素14のベータ線から1年間に約10マイクロ・シーベルトの実効線量を受けます。

・核分裂が起きるのは、原子核を構成する粒子(陽子と中性子)1個あたりの結合エネルギーが、原子番号26の鉄の近辺をピークに、粒子の数が多くなるほど小さくなる性質があるため、粒子の数が非常に多い原子核は、1個でいるよりも2つに分かれた方がより安定になるからです。

・融けた核燃料が容器の底にたまると再び臨界になることを心配する人が多いのですが、高温になるほどウラン238による中性子の吸収が大きく効く低濃縮ウラン燃料であることと、メルトダウンした状態では、それまで燃料の隙間を埋めていた水による中性子の減速がなくなるため、再臨界を起こす可能性は、きわめて低いと考えられます。

・脱原発を叫ぶ急先鋒の人たちが、使用済み燃料や高レベル廃棄物を安全に保管管理する施設の設置に反対する人たちでもあるのは、なんとも皮肉なことです。

・世の中の多くの人は、原爆の放射線を受けた人ががんになると、それはすべて原爆放射線のせいだと考えがちです。そして、その類推からか、放射線を浴びると「必ずがんになる」と思い込んでしまう人たちもいます。

・あまり基礎知識がない人たちにとっては、むしろ誤りや偏りのある情報の方が、心の中の恐怖を共感しやすいという落とし穴があります。

・セシウムは、ナトリウムやカリウムと類似した化学的特質があり、体の中では同じような代謝を受けます。

・セシウムは、カリウムと異なって人体の代謝に必須の元素ではありませんが、体内に摂取されると、ほぼカリウムと同様の代謝過程をたどります。そのため、体内に摂取すると、主に筋肉組織に分布し、やがて尿や便とともに排泄されます。

・放射性セシウムを体内に摂取した場合、どのくらいの期間で排泄されるかに関しては1960年代に動物や人間(!)を使っての実験が行われ、摂取した量の半分を人体から排泄するのに要する期間が、110日くらいであることが確かめられています。

・顔料のプルシャンブルー(ブルーブラックのインクに使われる顔料)を連続的に経口投与すると、腸管からの放射性セシウムの排泄がほぼ2倍促進されることも確認されています。

・魚やその他の海産生物も、ヒトと同じようにカリウムを代謝しますので、可食部分(筋肉)中の放射性セシウムの濃度は海水中の放射性セシウムの濃度と平衡状態にあり、貝殻にカルシウムを蓄積するように放射性セシウムを蓄積することはありません。

・海水中に生息する生物は、さかんに塩分を排泄する必要がありますので、排泄に要する時間は人間の半分以下しかかかりません。

・リスクが十分低いかどうかという判断は、個人の価値観に依存する主観的なものですから、それだけでは誰もが受け入れられる基準にはなりません。

・社会心理学の先生に伺うと、安全や危険に関する情報を受けたとき──たとえば「ただちに健康に影響する量ではない」に対して「それでは、いずれ病気になるのですね」と反応するように──人はともすればその言葉の「裏」を考えがちなものだそうです。

・辞書を引く手間さえ惜しみさえしなければ、一目で不適切だと分かる表現で、深刻な風評被害の種を蒔いてしまった。

・もともと私たちが口にする食品には天然の放射性物質が含まれていますが、そんなことを学校で習わなかったお母さんが、事故で放出された放射能をごくわずかでも口にすることを不気味に感じるのは当然でしょう。



放射線・放射能がよくわかる本

放射線・放射能がよくわかる本

  • 作者: 多田 順一郎
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2011/07/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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