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『続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析』 [☆☆]

・人間が作ったそのシステムはもはや創造主に使えるのをやめ、自身が支配者の座につき、その結果、労働世界はすべての構成員にとってハムスターの回し車に限りなく近づいている。

・経営者は本来ひどい人間ではなくても、システムによって病的な役割を押しつけられてしまうのだ。

・人々はよく、論理的な考えと希望的観測を混同するし、もっと深いレベルでは、理論と祈りすら取り違えている。

・願望を打ち砕かれると人間はすぐ、それを誰かのせいにしようとしたり、心理学でいう「投影」をしようとしたりする。

・危機の責任を誰かに押し付けるのは人々の心持ちや精神衛生の上では役に立つかもしれない。なぜなら、投影の対象は必ず、銀行や政治家やEUやギリシャなどの他者であるからだ。

・投影ばかりに気を取られ、スケープゴートを罰するのを楽しんでいると、次の危機が迫っていても、それに気づかない可能性もある。

・飢えた人に食物を与えて幸福にするのは簡単だが、満腹の人にさらに食べさせるという問題は巨大化しつつあり、その克服のために新しい心理学の分野が必要なまでになった。広告宣伝、販売、マーケティングなどがそれだ。

・仮に全財産を貧しい人々のために投げうっても、システムからは処罰も処分もない。「高次の」己の出現をシステムが抑圧することは、ほぼない。高次の己の出現を阻む大きな圧力は内側から作用している。

・ユダヤの人々は40年ものあいだ荒野にとどまり続けた。そしてエジプトを脱した者のうち一人も、約束の地を目にすることはなかった。彼らの投資は確かに、自分の子供たちには役に立っただろうが、自由へと向かった当の世代は何ひとつ得るものがなかった。

・お金はその実、社会への依存の象徴であり、グローバル化した現代においては、世界全体に対する依存の象徴でもある。

・自由を過剰に求めた結果、何が起こるかだ。その答えは、孤独だ。

・何かの知識が経済学に受容される時、そこにはひとつの原則が明らかに存在する。優れた経済学者の理論から、最大限有益なものではなく最大限過激なものを、最小限の知的労苦によって探し求めるというのがそれだ。

・財産がらみの犯罪率がテレビの普及に合わせるように、明らかに上昇していることがわかった。研究者らは、原因をテレビのコマーシャルにあるのではないかと見ている。もっと良い暮らしをしたいという人々の欲望や願望が、テレビのコマーシャルによって急激に増大したというわけだ。

・ハンナ・アーレントの言葉を借りれば、サディスティックな「悪人」とはまったく凡庸な人物でもあり、破壊の中でしか空想と能力を発揮できない。

・サディストは生まれつきではなく、社会経済的な要素で作り上げられる。ただ凡庸なのではなくて、教育によって人間として凡庸化される。

・経済学者にも同じように魔術的なところがあった。数字を扱う能力よりも、その魔術的な言葉遣いに私たちは引きつけられた。「見えざる手」「創造的破壊」「価格弾力性」「合理的選択」など、不思議な響きを持つ、たくさんの魅惑的な言葉に私たちは陶然とした。

・ハトにも「迷信」があると証明した。彼はハトを3羽、箱に入れ、箱には15秒ごとに餌を出す装置をつけておいた。何分も経たないうちにハトは奇妙な行動を見せ始めた。1羽は独特な踊りを始め、もう1羽は一定の間隔をあけて箱の隅をつつくようになった。ハトは餌が落ちてきた時に取っていた行動と、餌が出るという現象を関連付けた。

・免罪符の販売は、史上最初の純粋な大型投機であり、市場最後の確実な大型投機である。

・神の恩赦に特に頼ったのが、金貸し、商人、高利貸しなどの富裕層だった。地獄で苦しむ彼らを描いて、聖職者はよく説教を飾り立てた。

・市場で働く人々に対して、私たちは経済危機がないときは当然のように、まるでリスクなど一切ないかのように自分たちの金融の成長を任せきっている。だがいったん均衡が崩れると、私たちは道徳という武器を手に、「今まで不当に信じ込まされてきた」とその人たちを攻撃する。こんな行動を人間は何千年も前から繰り返している。

・承認欲求は採算性の高いビジネスフィールドだと考えることができる。そこではもっぱら私たちは自己表現願望が取引される。こうしたビジネスフィールドのひとつ、ファッションは、グローバル経済でも活気に満ちている。

・ファッションとは、個人とグループ、先駆者と模倣者、同調圧力と規格逸脱の間で行なわれる複雑な心理ゲームだ。その過程はロジックでは外見の姿だけの問題だが、ロジスティックでは輸送路、会計では販売と利益の問題となる。

・基本的に食品は栄養があって安価でなくてはならない。これはかつての富裕層や権力者が最初に学んだ教訓だった。大量の市民が腹をすかせれば、宮殿になだれ込む危険な敵になる。

・人間の体は、エネルギーの摂取に満腹感で応える。ただし、満腹感が得られるのはものを食べた瞬間ではなく、消化が始まってから、つまり食後15分ごろからだ。この時間のずれが問題になる。ハンバーガー3個程度なら、まったく満腹感のないまま3分ほどで食べてしまえる。しかし、それが含有する糖質と脂質のカロリーは、成人の1日摂取量を軽く超える。

・突き詰めれば、「肥満が増えれば、経済が成長する」というゆがんだ実体経済の計算に行き着く。医療費は妥当に計算すれば国内総生産、すなわち経済成長の一部になる。社会は経済的困窮者を太らせて病気にし、さらなる成長を獲得することができるのだ。

・人がのちに社会で公共心として有用だと思うものは、根源的な妬みから生じている。誰かが抜きん出てはならず、みなが同じ存在で、同じものを持つべきという考えである。

・子供が一番頻繁に口にする不平はおそらく、「そんなの、ずるい!」だ。

・偉大なものは「相手を説得するのではなく、陶酔させる」。

・政府がGDPの3パーセントの額を借金して(さらにそれを経済への投資に回して)、同じ年にGDPが3パーセント成長すると、みなが──一流の経済学者までもが──大喜びをする。借りたカネと自分のカネとの間には大きな違いがあるはずなのに。

・「人は家を去れば、わが家を失うことになる」というが、「わが家」とはそもそも何だろう? まだローンを払い終っていない家は、そもそもわが家とはいえない。

・私たちがなすべきは、より注意深く車を運転し、交通の規則を改善し、より安全で環境に優しい車を作ることであって、世の中から車を放逐することではないはずだ。

・アメリカでは恐慌がもとで戦争が引き起こされることはなかった。異なる民族や異なる国々に対して、責任転嫁がなされもしなかった。特定の集団に対する暴動や嫌がらせも起きなかった。だが、欧州では不況が伝わるやいなや戦争が起こり、戦争は世界に拡大した。



続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析

続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析

  • 作者: トーマス・セドラチェク
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 単行本



続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析

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  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: Kindle版



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