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『ミステリーで読む戦後史』 [☆☆]

・勇気、元気をもらったと、高い観戦料を払い、自分たちの何十倍もの収入のある者に感謝する。何か変だ。

・作家の個性に重点を置けば、文学史など無意味である。この時代に、こういう個性の人がいたということの羅列にすぎなくなるからである。

・ハードボイルドは斜に構えて社会を生きざるを得ない者の物語である。

・負の共同性とは、ある社会で、その社会から外れ、秩序を壊す方向が共感を得ていることをいう。

・口語体という形は江戸期の戯作の文体である。この文体だと、物語の展開や会話の面白さを書くことはできても、登場人物の心理を描くのが難しい。

・天皇を祀り、大東亜共栄圏を夢見て活動したが、戦後民主主義に簡単に転向した者たちがたくさんいた。

・「悪」を行なう事は追い詰められた人間のとる必然の行為であった。

・人は利用すべきものとしている。利用されるのが嫌なら、むしろ利用しなければならない。

・公聴会なるものが開かれて、言い分の一部は通っても、ほとんど解決はなく、いつの間にか話し合いをしたという既成の事実だけが続いていく。

・日本の刑事訴訟法は、明治のドイツの法体系に戦後、英米法の要素が加わって、世界一複雑になった裁判制度。

・云わんでわかれといったって、ムリだよ。それを君たちは、理解させようという努力をせんで、自分たちの心ではかり、裁き、決定し、その通りに行動してしまう。

・オリジナルが重んじられるようになったのは、個人に絶対的な価値を置くようになった近代社会からである。

・複数の詠み手が前の句を受けて次々と詠んでいく連歌という詩がある。これは世界が常に変化していくことの表現とみていい。

・文学は、言語は音の重なりが意味をもたらすものに過ぎず、最初から現実そのものではないという言語の本質的な虚構(フィクション)性を芸術にしたものである。語りは騙り(詐欺)でもあるのだ。

・全共闘運動とその衰退、新左翼の衰退と内ゲバが、なぜそうなったかは問われないで、暴力、テロに対する嫌悪をもたらした。

・障害の重い子は、「就学猶予」「就学免除」と称して入学を拒否されていた。

・1980年代はどんなことにも深刻にならず、突き詰めた議論はしなくなるという風潮が広がりつつあった。それは、自分の心さえ覗こうとはしなくなっていったことを示している。

・人に優しいだけで、物事をきちんと考える人は減り、議論する雰囲気がなくなっていった。

・購買層を生み出そうとする北部と、奴隷労働によって農業生産の利益を求める南部との、産業戦争だったという話をしたところ、奴隷解放のための戦争としか思っていなかったらしく、学生の反響が大きくて、むしろこちらが驚いたことがあった。

・てめえらの仕事って何だよ。俺らは体張ってんだ。街ィ守ってんだよ。てめえはなに守ってんだ? 本部長か? てめえ自身か? 言ってみろ! と言われ、そんなもの家族に決まってるだろうが! と答えている。

・書物こそが考えることをさせる。読書は一人、書物と向き合って言葉の羅列から像を造り、また書かれている内容を理解しようとする、考えることを自然にもたらすものである。

・情報を与えるばかりで、考えることを訓練していないから、真似するだけだという。

・人は生まれてからずっと様々な考え方、感じ方を刷り込まれている。そういう中で自分の意見は自然にできるわけではない。刷り込まれた世間の意見を整理し、検討していく態度を身につけなければならない。

・他人の見解に便乗して賢者になるくらいなら、むしろ自力だけに頼る愚者である方がましだ。

・三代という世代は、歴史を構成する最小の単位である。

・その孫である三代目は、祖父母の体験の話としてしか戦争を感じることができないし、ほとんど復興後の風景しか知らないので、戦後もリアルではなくなる。三代目に至って戦争は歴史化されるのである。

・労働者は、人間を地域、国や宗教などではなく、資本家と労働者という対立関係の中で捉える、マルクスが生み出した新しい人間把握の概念である。

・景気は少しずつ回復していると言われていたが、仕事にプロフェッショナルなプライドを持って日々を闘ったり、モーレツに働くことに生きがいを感じたりすることができない人々がいる。



ミステリーで読む戦後史 (平凡社新書)

ミステリーで読む戦後史 (平凡社新書)

  • 作者: 古橋 信孝
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 新書



ミステリーで読む戦後史 (平凡社新書0901)

ミステリーで読む戦後史 (平凡社新書0901)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2019/01/15
  • メディア: Kindle版



タグ:古橋信孝
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『世界が動いた「決断」の物語』 [☆☆]

・難しい状況が発生するとき、それが難しい理由はおもに、検討するときに賛成と反対の理由が同時に頭に浮かばないことにあります。さまざまな目的や気持ちが代わる代わる優勢になって、確信のなさに迷ってしまうのです。

・「決定者」に必要なのは、意思決定の才能ではない。必要なのはルーティンや習慣なのだ。それは問題と向き合い、他にはない特性を探り、選択肢を比較検討するための、明確な一連の手順である。

・議題について討論する前に、出席者全員に前もって自分の意見を簡単にまとめて提出してもらうことだ。こうしておけば、グループ内の知識や意見の多様性を活かすことができる。通常の自由討論では、最初に発言する人や強く主張する人の意見に重みがかかりすぎ、後から発言する人は追随することになりやすい。

・集団はメンバーの間に散らばる形で様々な情報を豊富に有していることが多いが、メンバーが実際に直接集まると共有されている情報ばかり注目する傾向がある。

・集団がうまく機能するためには、認知の周辺にいる人々を活かさなくてはならない。こうした人々が重要であるにもかかわらず、ほとんどの集団では認知の中心にいる人々が議論の行方や結論に過大な影響を及ぼす。

・能力の低い人は自分のスキルを過大評価する傾向がある。最も誤りやすい道は、えてして自分が正しいと確信することである。

・地下室火災の寓話が教えてくれているのは、自分の盲点を知っておくこと、自分が理解していない状況の要素を認めることがいかに重要か、である。

・隊長の長年にわたる消火活動の経験は、彼が地下室火災の隠された真実に気づくよう導いてはいない。彼は自分が何かを見落としていると認識できただけである。そしてその認識だけでも、彼は状況をもっとよく把握するまで建物がら撤退せざるをえなかった。

・選択肢をひとつしか検討しない被験者が最終的に50パーセントの確率で自分の決定を失敗だと判断しているのに対し、2個以上の選択肢が検討された決定は3分の2の確率で成功と感じられていることを明らかにした。

・もし自分が「やるか否か」問題のマッピングをしていると気づいたら、必ずと言っていいほど利用可能な道が見えてくる「どれにするか」問題に置き換える方がいい。

・道Aが自分たちに利用できる唯一のルートだと組織が決めてかかっているようなら、道Aが封鎖されている世界を想像しよう、その場合はどうする?

・人類にふさわしい名前はホモ・プロスペクトゥス(見通すヒト)だろう。なぜなら、私たちは先の見通しを考えることによって繁栄しているからだ。

・私たちは常に近い将来の出来事について予測していて、その予測が人生における選択を導いている。その予見の才能がなければ、私たちは根本的に異なる種になってしまうだろう。

・例外なく制限速度を時速40キロに設定すれば毎年何千人の命が救われることは確かだが、私たちは社会として、制限速度を上げることで得られる運輸や商業の便益が交通事故死亡者という費用に「見合う」と決定したのだ。

・人類史の大半にわたって、大虐殺を抑えていたのは知性や道徳心による歯止めより、テクノロジーの限界だったのだ。

・その生態的地位を私たちが占めているのは、けっしてそこに最適に適応しているからではなく、最初に到達したからである。

・SF小説は1世紀以上にわたって人工知能の落とし穴について思いを巡らせてきたが、問題が現実世界の議論や論争に入り込んできたのは、ほんの数年前のことだ。SF小説のおかげで、私たちは問題をより明確に捉えるための予備知識を得られ、テクノロジーによる限定合理性の範囲を見渡すことができた。

・ただひとつ、はっきり言えることは、心を落ちつけて、考えなおせ、ということだった。重大な決断をする時には、どんなアプローチを採用するにせよ、2つの行動がどうしても必須である。それは心を落ちつけ、そして考えなおすことだ。

・どんなアプローチが一番うまくいくように思えるにせよ、ほぼ必ず恩恵をもたらすのは、時間と新しい視点、この二つなのだ。

・選んでいいと言われると、ほとんどの人は教科書より小説を好み、ドキュメンタリー映画より架空の出来事を描いた映画を好む。つまり、はっきり嘘だと示されているコミュニケーションに、大いに興味を抱いているのだ。この現象はありふれているせいで、根本的なそのおかしさに気づかない。

・映画と写真は見る人を視覚的に真に迫った別世界にいざなうことができるし、音楽は人の体と感情を揺さぶる。しかし、他者の心の内側に広がる風景へと引き込む力では小説に匹敵する形式はない。

・「鋭い洞察力と感受性」をもって状況を把握し、「愚鈍さに五官をふさがれて、のん気に歩きまわる」傾向を避ける。

・小説は、他のどんな創作形式より、私たちが実際に自分の決断下す前に人生の難しい選択をシミュレーションし、予行するチャンスを与えてくれる。



世界が動いた決断の物語【新・人類進化史】

世界が動いた決断の物語【新・人類進化史】

  • 作者: スティーブン・ジョンソン
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2019/03/27
  • メディア: 単行本



世界が動いた「決断」の物語 新・人類進化史

世界が動いた「決断」の物語 新・人類進化史

  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2019/03/27
  • メディア: Kindle版



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『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語』 [☆☆]

・人間の進歩を測る物差しのひとつは、多くの人々に現在どれだけ休養の時間があるか、そしてその時間を楽しむためにどれだけ多様な方法があるか、である。

・遊びではしょっちゅうルールを破って新しい習慣を試すので、そこからさまざまなイノベーションが芽を出し、最終的に、はるかにしっかりした重要な形へと発展する。

・伝統的歴史で目立っている社会制度──政体、企業、宗教──は、社会秩序の現状について、たくさんのことを教えてくれる。しかし、次に何が来るのかを解明しようとするなら、たいていは遊びの周辺を探った方がいい。つまり、新しい楽しみ方を考え出す人間の趣味、好奇心、サブカルチャーである。

・どの時代も次の時代を夢見て、夢見る中でそれをつくり出す。

・消費を呼び起こすのは必要性ではない。生理的欲求はすぐに満たされるかもしれないが、心の欲求、流行、そして新しいものや希少なものへの欲求こそが、交易を生じさせるのである。

・紀元900年頃のイスラムによる香辛料貿易の地図は、今日の世界中のイスラム教徒人口を示す地図に、ほぼぴったり一致する。

・香辛料嗜好のために人間は、新しい地図製作法と航海術、新しい船、新しい企業組織、そしてもちろん新しい形の搾取を、考案することになった。すべて、スマトラで栽培されたコショウを、できるだけ効率的にロンドンやアムステルダムの台所に届けられるよう、地球を小さくするためだった。

・芸術はテクノロジーの地殻変動の余震である。余震は遅れてくることもある。小説が現代の形式に進化するまでに、印刷機の発明から300年かかった。

・1秒に12フレームは、気体と液体の境界に相当する知覚である。その境界を越えた時、根本的に異なるものが現れた。静止画に命が吹き込まれたのだ。

・チェス盤は、社会の各要素を結びつける別の方法を示していた。すなわち、法律と契約としきたりによって統治される世界だ。

・チェスの寓話は、被統治者を国家と一体化した生体としてではなく、ルールによって結びついている駒という形で示すことにより、それぞれに自立した体があることをイメージさせる。チェスのキングが前進しても、ポーンに同じことをする義理はない。

・比喩により思考は頭を柔軟にする。しかし比喩にこだわっていると、型にうまくはまらないものは見えなくなるので、比喩が制約になってしまうおそれもある。

・ゲーム──物としてのゲームではなく、内在するルール──こそが、グローバルなるつぼに初めて投じられた主要な文化的材料だった。

・カルダーノがゲームを覚えたころには、サイコロのデザインは標準化されていた。そのおかげでカルダーノとパスカルとフェルマーが、確率について体系的に考えられるようになった。

・サイコロという物体をより均質に作ることで、最終的にホイヘンスやハレーのような人々が、確率論という新しいツールを使って、人間の死すべき運命という明らかに均質でないものを分析することができた。サイコロはもはや単なる遊び道具ではなくなり、あらゆる予想をくつがえして、考えるための道具になったのである。

・中世のサイコロの均一な形のおかげで、それをつくった人間が確率について新たな角度で考えることができたように、道具は必ず最後には道具の製作者を変えることになる。

・ワトソンのルーツは覚えておくに値する。おそらく地球上で最も進んだ形の人工知能は、クイズ番組のための訓練で教育されたのだ。

・私たちの心はゲームの難しさと予測不可能なところに引きつけられずにはいられない。その心がやがて非常に賢くなり、人口の心をつくることについて考えるようになったとき、自らに課した最初の目標のひとつが、一緒に遊べるマシンを作ることだったのは、当然のように見える。

・「贅沢品」、新石器時代の社会に見られた宝飾品などの小間物として、最初の都市ができるより前から存在した。しかし贅沢な体験はそれまでないものだった。

・コーヒーハウス特有の民主主義は、それ自体が成果であり、次の世紀には政治的民主化に一役買うことになった。

・初期の批評家にとって、コーヒーハウスは道楽と倦怠感の空間、「正しい職と仕事」から男たちが逃げ込む場所のように見えたかもしれない。

・それぞれに支持者と誹謗者がいる。



世界を変えた6つの「気晴らし」の物語【新・人類進化史】

世界を変えた6つの「気晴らし」の物語【新・人類進化史】

  • 作者: スティーブン・ジョンソン
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/11/20
  • メディア: 単行本



世界を変えた6つの「気晴らし」の物語 新・人類進化史II

世界を変えた6つの「気晴らし」の物語 新・人類進化史II

  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/11/20
  • メディア: Kindle版



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