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『科学する心』 [☆☆]

・同じモノと違うモノ。世界の素材は互いにグラデーションで繋がっているのではなく、個として截断されている。米と麦の性質に中間はない。

・2014年、世界各国の国内総生産の合計は約77兆ドル。これに対して外国為替取引高は700兆ドルを超えた。なぜ世界中の生産物を9回も買えるほどのお金が要るのか、素人にはわからない。

・金融工学とかいっていくら複雑化しても無から有は生じない。やりくりはやりくりであって創造ではない。

・今の工業製品で最も黒いのは「ベンタブラック」というもので、入射光の99.965パーセントを吸収するという。素材はカーボン・ナノチューブで、林立するチューブの中に入った光は乱反射を繰り返して最終的には熱になる。

・生物を作っているのは炭素の格子構造。鉱物を作っているのは珪素の格子構造。炭素は原子番号6、珪素は原子番号14、周期表では上下に並んでいる同族元素。従って性質も似ており、最外殻にある価電子の数が4つなので格子構造を作りやすい。

・進化は進歩ではないと識者が何度となく警告しても一般の人々は「進化したケータイ」という広告を信じる。

・生存は環境に大きく依存するが、ヒトはその環境を自分で整備するというずるい戦略で地上に君臨している。

・核燃料のペレットはジルコニウムで被覆されている。冷却水喪失で高温になったジルコニウムは、水蒸気と直に接触すると二酸化ジルコニウムに変わり、水素が発生する。

・マリー・キュリーの死因はラジウムの放射能ではなく、第一次世界大戦の時に戦場でボランティアとして行ったX線撮影の際の被爆だった。

・科学は得られた成果を蓄積できるから進歩するけれど、芸術の才能は個人に属する。画風の変化はあっても進歩ということはない。

・過去に戻ることはできないのは承知で、またそのつもりもないのに、現代を批判するために遠い昔を引き合いに出す。

・生物には個体と個体の戦いだけでなく、種対種の戦いもある。食うか食われるかであり、同じものを食する外の種にいかに先んじるかだ。

・世のグラフィック・デザイナーの大半はスーパーの安売りの折り込み広告を作っているのだ。そこがAIによって置き換えられてゆくとすれば、社会は大きく変わるだろう。

・「考える」ことはAIにもできるが、「思う」ことは今のところ人間にしかできない。

・ある意見や報告に対して非科学的だという評価はほとんど全否定に近い。科学は客観的であり、万人が認める基準に拠る世界の骨格であり、それ以外はあってもいいけれどせいぜい贅肉である。



科学する心

科学する心

  • 作者: 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2019/04/05
  • メディア: 単行本



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