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『静かなる戦争』 [☆☆]

・もはや、ヨーロッパ地域の「悪党」は、モスクワに操られたり、指示を受けたりはしない。後盾のいない、ただの「悪党」が大きな被害をもたらすようになっていたのである。新時代の「悪党」は、純粋な「悪」だった。アメリカ国民の多数が政治的に対抗を誓うような「目印」はもはや付いていなかった。

・軍事計画立案者が心配していたのは、「万が一」の事態が起きてしまうことだった。ベトナム戦争の失敗は、万が一の事態を想定していなかったことが大きい。

・こちらの選択肢も多様だが、少なくとも、向こうにも同じくらいの選択肢があると見ておいた方がいいだろう。

・歴史的憎悪に満ちた、さまざまな勢力が、納得いくまで殺し合う以外に、どうすることもできない。

・道理がわからない人間に、道理を説いても無駄だ。話すだけ損である。

・冷戦後の世界は混乱ばかりで、前向きの選択肢はほとんどない。後ろ向きのものばかりだ。

・崇拝者でさえ、「バランス感覚がない」と漏らすことがあった。自分はすべて正しいと思い込むあまり、些細な問題でも、まるで世界戦略を取り上げているかのように激しく議論し、頑として譲ることがなかったからである。

・国家は近代化に伴い、電力、通信システム、石油備蓄、輸送機関への依存度を高めるから、ここを衝かれると弱い。ピンポイント爆撃を行なってインフラを破壊し、近代国家を麻痺させる。一時的に効果のある毒物をすばやく注射して、軍事および国家の機能を停止させると考えればいい。

・政府と軍のトップの思考は過去の戦争に縛られていたから、新しい事態に適応するのも遅かった。

・宿敵は、臨終の時が一番危険だと相場は決まっている。

・アフリカには、B級、C級の兵器を大量に持った、貧しい発展途上国がある。国家といえるかどうかさえ怪しい。軍と秘密警察以外は、政府機関の大半が機能しなくなっている国々だ。これらの国が崩壊し、別の危機が起こる危険性も出てきた。

・アメリカ人をはじめ、ユーゴを訪れる外国人はユーゴ国民を絶賛した。もちろん、表面的な賞賛という面はある。なぜならアメリカは、何よりもユーゴの敵国が嫌いだった。だから、ユーゴ人の短所より長所を見るようにしていたのである。

・ユーゴで影響力のある政治指導者の多くは、自分たちの限られた目的に使用できないのであれば、現代性など不要であると考えてきた。

・いつも助けを申し出てくれるものの、不器用なアメリカは、(特にフランス人の意見であるが)他国のことには呆れるほど無神経だ。

・政治の世界でも、過激な新種のウィルスが出現していた──「極右の民族主義」である。いったんこれがある民族内に現れると、次々に伝染していく。

・「冷戦の終結」でアメリカ政治の争点が劇的に変わり、「湾岸戦争」の勝利でブッシュの支持率が急上昇したため、恐れをなした民主党の大物政治家が立候補を断念したのである。この二つが、クリントンに追い風となった。

・たとえ国民がクリントンを嫌っていたとしても、国民がそれ以上に嫌っていたのは、クリントンの批判者たちであり、ますます攻撃的となり、執拗にクリントンを追求した「マスコミ」であった。

・マスコミは、他の重要な事件では、「国民の知る権利」を盾に取材を正当化した。しかし、国民の多くは、今回のようなスキャンダルでも、そのような主張が通るとは思えなかった。

・ボスニアは、ヨーロッパの「イスラム国家」であるため、近くには友好国もほとんどなく、孤立状態であった。それなのに、ボスニアの指導者達は、策を練らず、奇妙な行動をとった──軍事的に何の準備もしないで、独立を目指したのである。

・哲学者ヘーゲルの言葉に「ミネルバのふくろうは、夕暮れになって飛び始める」というのがある。これから起きる重大事件を警告するような明確な兆候が現れた時には、時すでに遅し、という意味だ。いざ行動を起こそうとしたら、もう手遅れになっていることが多いのだ。

・パウエルは、人道支援のための派兵には懐疑的だった。輸送機が撃墜されたり、兵士が捕虜に取られるなど不測の事態が起これば、いとも簡単に「任務拡大」につながるからだ。

・テレビ報道自体が、戦争をまるで娯楽のように見せ、大勢のアメリカ人を愛国者ではなく、「視聴者」にしてしまったのだ。

・1980年代、90年代のテレビ局は、優秀なレポーターではなく、テレビタレントばかりを生み出した。

・全米ネットが傍観を決め込んでいたのに、CNNだけがユーゴ情勢を報道していたのは、別に驚くべきことではない。CNNは全世界に系列局を持っている。だから、たとえアメリカの視聴者が興味を示さなくても、ユーゴ情勢に国際的な関心があればいい。

・失敗の原因は、政策を心底支持していない人たちが、準備もせず、政策も練り上げずに提案したことにある。

・世界は変わった。CIAも以前ほど重要ではなくなった。報告書に書いてあることは、すでにCNNで報道されていることが多かった。

・1992年の夏までに、アメリカでは、ソマリアの映像が大量に流された。悲惨さではボスニア紛争に一歩譲るが、放送量ではこちらの方が上だった。ボスニアの難民キャンプには容易に行くことはできなかったが、ソマリアに行き、死にかけている人の映像を撮ることは簡単だった。

・ソマリアを支配するのは氏族である。そのソマリアで氏族は、長期的ビジョンを持たず、節度を失い、残忍で自己中心的となっている。彼らの頭にあるのはただ一つ──権力にしがみつき、ライバルの氏族を追放することだけだった。

・国家建設とは、その国が望み、国内勢力が自発的に動いてはじめて可能となる。善意の外国人が、おめでたいことに自らの私利私欲に気づかずに、はるか離れた、文化の異なる国に強制しようとしても成功はしないのだ。



静かなる戦争(上)-アメリカの栄光と挫折

静かなる戦争(上)-アメリカの栄光と挫折

  • 作者: デイヴィッド・ハルバースタム
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2003/06/27
  • メディア: 単行本




・正常な精神状態を高く評価しすぎているのではないか。精神が正常であっても、どうしようもない奴はいくらでもいる。

・報道陣は、「これこそ官僚的応答の最たるもの」と思った。口を開けて何かを言うが、内容はまったくない。はっきりものを言うと、道義的な責任を問われる恐れがあるからだ。

・米ソの対立は、1960年代に事実上「引き分け」で決着はついている。あとは、どちらが早く持ち札を使い切るか、それだけの問題だ。

・ヨーロッパでは外交における「道義性」は弱さだと考えられている。

・もし、新しい難民キャンプを頑丈に作ってしまうと、まるで(パレスチナの)ガザ地区がもう一つできるように恒久的なキャンプになってしまう恐れがあった。

・最も希少で理想的なタイプは、「才能があり、手がかからない」である。このタイプの人は、才能に溢れ、自己を律する力が強く、共通の目的を意識する。注目を引くためでなく、行動に価値があるからという理由で、行動するタイプの人間である。

・政治家はできるだけ曖昧な言葉遣いをするが、軍人は曖昧さを嫌うものだ。政治家としての「技術」は、軍人にすれば「ごまかし」でしかなかった。

・軍では、いくつかの資質が尊重されるが、同僚を判断する基準は最も単純なものである。「こいつは、砲火にさらされている戦場から、負傷した仲間を運び出すだろうか?」。

・クラークは「リトマス試験紙」のようなものだ。周りの人間がクラークへどう対応するかを見れば、何よりも、その相手がどういう人間なのかわかってしまうからだ。彼らが、聡明で自信のある人間であれば、クラークが時折見せる癇に触る部分も大目に見る。しかしながら、階級が上がり、任務も複雑になり、自分の地位に安心できない者たちは、任務を軽々とこなすクラークに反感を抱くのである。

・「組織型人間」は、意識するしないにかかわらず、組織より自分の方が優れていると考える人間には我慢ならないのだ。

・アメリカは、訓練の死者数は厭わないが、実戦の犠牲には耐えられない。

・戦争の歴史には、転換点となる重要な日付がある。1917年11月20日はその一つ。この日、第一次大戦の激戦地フランスのカンブレーで、戦車が、伝統的な歩兵、騎兵、大砲の優位を覆したのである。1940年11月11日もそうだ。第二次大戦中のこの日、タラントでイタリア艦隊が撃沈された。空母と航空機が、長年続いた戦艦の優位を完全に打ち砕いた日である。そしていま新たな記念日が歴史に刻まれた。1999年6月3日、ミロシェビッチ大統領が降伏し、空軍力だけで戦争に勝てることが証明されたのである。

・誰かが巨大なスイッチを入れたかのように、突然マスコミが、セルビア政界の様々な勢力の声を報じるようになった。つい最近まで政府の太鼓持ちでしかなかったジャーナリストたちも、自由にペンをふるい始める。

・アメリカのような開かれた社会の最大の脅威はテロリストであり、「ならず者国家」の軍事力など目じゃない、と考えられている。「ならず者国家」はむしろ格好の攻撃目標となっているのだ。アメリカという開かれた社会にとって現実的な危険は、どの国の政府とも関係のないテロリストが、「初歩的な核兵器」を持ってアメリカの都市に徒歩で侵入する、というシナリオである。



静かなる戦争(下)-アメリカの栄光と挫折

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  • 作者: デイヴィッド・ハルバースタム
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